Fish of the Month sea urchin

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Site opening on 31 December 2023

エゾバフンウニのアルビノ

至福

今回のウニのコンテンツを以て、当初予定していたFoMの20のコンテンツはほぼ出揃いました。企画中のものがいくつかありますが、それらの公開と、既存のコンテンツの更新をしながら、今後も先進的な海洋生物の話題を提供していきたいと思います。興味深い学術情報を数多く提供いただいた北海道大学の教員・研究員の皆様はもとより、函館水産試験場、ふじのくに地球環境史ミュージアム、国立極地研究所、足寄動物化石博物館、ソフトバンク株式会社の皆様には感謝申し上げます。

何よりも、当初から、FoMを支援いただいた東洋水産株式会社、アサヒビールホールディングス株式会社、ヤマサ醤油株式会社には、あらためて深謝申し上げます。また、配信ツールの技術的な支援をいただいたアドビ株式会社にも心よりお礼申し上げます。

ウニは研究しつくされている海洋動物と思い込んでいましたが、効率的な種苗生産・放流、成熟の生理学、腸内細菌の働き、など、新たな研究が展開され、数多くの興味深い新たな学術成果が得られ続けています。これらの研究は、北海道大学大学院水産科学研究院の在職者あるいは出身者によるところが大きいといっても過言ではありません。ウニは、北海道の海には欠かすことができない海洋生物です。そして、ウニは、日本の年末年始の料理にも彩を添えてくれます。ウニの知見をお楽しみください。皆様にとって、新たな年が幸多き年になりますこと願っております。

FoM Editorial

31 December 2023 posted

種苗生産

世界中にウニの仲間は830種(重井 1974)~850種(Harries & Eddy 2015)いるとされていますが、このうち熱帯から亜寒帯に生息する17種ほどが食用にされています(Harries & Eddy 2015)。

日本では、縄文時代から食用とされ、奈良時代に編纂された養老律令(718年)や平安時代の延喜式(905年)にも登場します。一方、北海道での漁業の歴史は浅く、明治12年(1879年)に、越前ウニで有名な福井県から室蘭へやってきた入植者が汐ウニを作ったのが最初とされ、汐ウニを作る技術が開発されたことにより遠隔地である蝦夷地から、消費地である本州に輸送できるようになり、北海道が漁場として開発されたのです(北海道立網走水産試験場 1979)。

一方、利尻島では、昭和7年(1932年)にコンブの害敵として駆除したウニを買い上げるという形で漁業が始まっています。それが、太平洋戦争中に始まった食料管理法の中で、統制品目外にあったウニが、急速に漁獲されはじめ、本州向けに出荷されたことをきっかけにウニ漁業が本格化しました(北海道立網走水産試験場 1979)。

北海道では主にキタムラサキウニMesocentrotus nudusとエゾバフンウニStrongylocentrotus intermediusが漁獲されています。ウニ類の漁獲量は1967年の1,606トンをピークに、2022年にはウニ類の漁獲量は1/3の538トンにまで減少しています(図1)。こうした資源の減少に歯止めをかけようと人工種苗の放流が行われていますが、キタムラサキウニは日本海沿岸域の磯焼け地帯に多く分布し、この食圧が磯焼けの持続要因の一つと考えられているため、主にエゾバフンウニの人工種苗が放流されてます。

ウニ類の種苗生産の最初の試みはアカウニPsuedocentrotus depressusで、1960年代に始まったとされます。 これを皮切りにムラサキウニAnthocidaris crassispinaやバフンウニHemicentrotus pulcherrimus で技術開発が進みました。北海道ではホタテの採苗器にエゾバフンウニが付いていることを見て、1970年代にまず天然採苗が始まりました。

天然採苗では毎年の生産数が大きく変動してしまい、計画的な資源添加ができません。そこで、1981年から陸上施設での種苗生産が始まりました。人工種苗生産はまず放流予定地先の親を集め、採卵・採精(写真B)して受精卵を確保します(写真C)。孵化した幼生には、あらかじめフラスコで培養(写真A)しておいた長径5 μm程度の浮遊珪藻Chaetoceros gracilis(写真D)を与えて水温18℃で3週間ほど育てます(写真E)。十分に成熟した幼生は(写真F)、Ulvella lenzという盤状緑藻(写真H)と接触して変態し、稚ウニとなって底生生活に移ります(写真I)(Sakai et al. 2003)。

種苗生産施設ではポリカーボネイト製の波板(写真G)の表面にUlvella lenz を繁茂させておきます。ここに着底させた稚ウニは、このUlvellaを食べて成長し、4か月程すると殻径5 ㎜まで育ちます。この盤状緑藻を増やすためには水温を15℃~20℃に維持する必要があり、ウニの成長を支えるためには、非常に多くの波板と労力を必要とします。

これまでは殻径5 ㎜になるまで、稚ウニは海藻類を食べられれないとされていましたが、飼育水の換水率を増やすことで、殻径2 ㎜の稚ウニでも海藻や、乾燥した海藻粉末を食べて成長できることが明らかになりました(酒井 2023)(表1)。まだウニ類の消化機構は十分に解明されておらず、なぜ換水率が摂餌に影響するのかは明らかではありませんが、従来に比べ小さいうちから海藻粉末で育成できることが明らかとなったことで、今後はUlvellaを繁茂させた波板を用意する必要がなくなり、種苗生産を大幅に効率化できると期待できます。

表1 従来の波板飼育と新規開発中の飼育手法により見込まれる作業量等比較(5 ㎜ 100万個体生産時)

酒井勇一・函館水産試験場・主任主査 (北海道大学大学院水産学研究科・修士課程修了)

写真 エゾバフンウニの種苗生産(採卵~幼生飼育・採苗). A浮遊幼生の餌料培養, B採卵,C受精卵, D浮遊幼生の餌料藻Chaetoceros gracilis, E8腕期幼生, F変態期幼生, Gウルベラを繁茂させた波板, H盤状緑藻Uluvella lenz, I着底直後の稚ウニ.

参考文献

重井陸夫 (1974) ウニ(海胆)類 動物系統分類学8巻8(中) 棘皮動物、中山書店、208-332.

Harries LG and Eddy SD. (2015) Sea urchin ecology and biology 3-24. Echinoderm Aquaculture, Edited by Nicholas P. Brown and Stephen D. Eddy.

北海道立網走水産試験場 (1979)ウニ(海胆)の加工.

Sakai, Y., Tajima, K. and Agatsuma, Y., (2003) Mass production of seed of the Japanese edible sea urchins Strongylocentrotus intermedius and S. nudus. Proceedings of the international conference on Sea-Urchins: Fisheries and Ecology 287-298.

酒井勇一 (2023)多段式育成手法を活用した道産エゾバフンウニの効率的な種苗生産体系の開発 令和3年度 道総研 函館水産試験場事業報告書5-8.

31 December 2023 posted

種苗放流

北海道では1981年にエゾバフンウニの人工種苗放流が始まりました。この放流が始まって22年目に当たる2003年に、道内各地で水産技術普及指導所や水産試験場で行われた追跡調査のうち、在来個体との判別を行って漁獲物の調査を行った事例59件の結果を見ると、放流種苗の漁獲回収率は平均25.8%でした(酒井 2003)。漁獲サイズは日本海側(45 ㎜以上)と太平洋側(55 ㎜以上)で異なります。そこで、2003年の魚価(殻付き1,638円/kg) を基に、それぞれの海域での投資効率(漁獲収益÷放流種苗経費)を計算すると、日本海側では3.13、太平洋沿岸域では5.58でした(酒井 2003)。

この投資効率は、種苗生産単価が安いほど大きくなり、飼育期間が短い小さい種苗ほど種苗生産単価は安くなります。しかし小さい種苗ほど放流後に外敵により捕食されやすく(宮本ら 1985)、放流には15 ㎜以上の大型の種苗が適するとされていました。寒冷な道東海域では飼育海水が結氷してしまうため、飼育期間は4月~12月までの8か月間に限定され、陸上施設では大型種苗の育成は困難となっています。また、ウニ類はコンブ類を食べる外敵とされ、コンブ漁業への着業者が多い道東海域では放流場所も限られます。

この道東海域では、投石試験(表面に海藻類の遊走子などが付いていない状態の陸石やコンクリートブロックを投入)でコンブ類の遊走子は11月~翌年の5月に着底し、これと競合する多年生のウガノモクCystoseria hakodatensisは7月~9月に着底することが確認されています。また、殻径5 ㎜のエゾバフンウニは飼育試験によりコンブ類の他、ウガノモクも摂餌することも確かめられています(酒井 2003)。そこで、放流種苗の食圧でウガノモク群落を破壊し、成長した個体を11月~翌年の5月の間に漁獲して収益を得るとともに、ウガノモクの群落を破壊してできた裸地に、コンブ類を着底させることでコンブの漁場が形成できるかどうかを試しました(Sakai et al. 2004)。

事前の調査で、在来個体がいないことを確認したウガノモク群落(60×43 m)に、平均殻径5.9 ㎜の人工種苗49.5万個体を190個体/平方メートルの高密度で放流しました。この放流地と、隣接する非放流地(対照区)に4平方メートルの永久調査区を設置して、ここに生えていたガッガラコンブSaccharina coriaceaやウガノモクの基部にプラスチックタイを装着しました。以降、毎年新規に加入する個体に異なるプラスチックタイを装着し、3年間放流区と対照区で海藻群落の消長を調べました。この結果、放流区では、放流翌年から、放流前から生えていたウガノモクとコンブ類は減少し、新規の加入個体は認められなくなり、海藻類の現存量も対照区の10%まで減少しました。

放流後、4年目から漁獲を開始し、その3年後には放流個体の14.8%に当たる7.3万個体が漁獲され、水揚げ金額は 674万円に達し、投資効率は1.35となりました。漁獲後の調査では、平均殻径62.7 ㎜の7.9万個体、重量にして約7.5t、1,100万円相当の放流種苗が獲り残されていると推定されました。外敵の食害に遭いやすいとされる殻径5 ㎜程度の個体でも十分資源に添加されることが確認されました。

漁獲後の調査では、背景写真のようなガッガラコンブの群落(対照区の6倍程度)が形成され、元々生えていたウガノモクの現存量は対照区の2/5と減少し、狙い通りガッガラコンブが優占する群落を形成できることが確認できました。道内のコンブ産地では、大型重機を使ったり、水中爆破を行って群落形成のための裸地造成が行われていますが(雑海藻駆除とよばれます)、今回のようにエゾバフンウニを利用する方法も効果があることが分かります。ただし、取り残し個体が高密度にいる場所では、せっかくできたコンブ群落はパッチ状に減少し、先端はすでにウニに食べられはじめていましたので、漁獲圧の調整は必要になります。

水産業に携わる人間として、生物の保全と漁業という経済活動の両立は分かつことのできない課題ですが、それぞれの特性を明らかにして上手にコントロールすることで、新たな技術を展開できるはずです。

酒井勇一・函館水産試験場・主任主査 (北海道大学大学院水産学研究科・修士課程修了)

参考文献

酒井勇一 (2003) エゾバフンウニ漁業を取り巻く現状と人工種苗放流について 北水試だより(59)1-8.

宮本建樹・伊藤雅一・水鳥純雄 (1985) 天然採苗したエゾバフンウニ稚仔の種苗性について 北水試月報42.203-221.

Sakai, Y., Tajima,K. and Agatsuma Y. (2004) Stock enhancement of the short-spined sea urchin Strongylocentrotus intermedius in Hokkaido, Japan. Stock Enhancement and Sea Ranching developments, pitfalls and opportunities Second Edition 465-476. Ed.K.M. Leber, S. Kitada, H. L. Blankenship, T. Svasand.

背景写真 エゾバフンウニ種苗を漁獲回収した翌年のガッガラコンブ群落と取り残し種苗により葉状体を摂食されはじめているコンブ群落. A&C エゾバフンウニ漁獲後に形成されたコンブ群落, Bエゾバフンウニの取り残しにより摂食されるガッガラコンブの葉状体, D葉状体の末端を摂食され基部だけになったガッガラコンブ群落.

31 December 2023 posted

ウニのマイクロバイオーム

ウニ類は、理科の実験などで、発生過程の観察でも使われるように、古くから重要なモデル生物として知られています。ホストの生理・発生生物学および分子生物学は高度に進展している。これに対し、その消化管マイクロバイオームの機能は1980年代に窒素固定細菌の存在が指摘されて以降、停滞しているのが現状でした。

ナマコのコンテンツで紹介していたように、ウニはナマコと同様、棘皮動物です。棘皮動物は、ヒトと同様に後口動物の一種であることから、ヒトに比べ単純な消化管の構造ですが、消化管の発達過程には、ヒトのそれと類似してる点があります。棘皮動物の消化管マイクロバイオームの構造と機能およびその形成過程のダイナミクスに関する知見を深めることで、ヒトや魚類の消化管のマイクロバイオームの共通性や相違点がわかるようになります。また、食糧や物質生産の観点から、健全な腸内環境をデザインするプレバイオティクスおよびプロバイオティクスの開発も期待されます。

ヒトでは、食べ物により消化管の微生物の群集構造は影響を受けることが知られている。そこで、北海道の異なる種苗生産施設で飼育されていた異なる2種類のウニ(エゾバフンウニとキタムラサキウニ)を、同じ実験施設に移動させ、同一の環境で、同一の餌料を与えて、飼育し、消化管微生物の群集構造の変化を観察しました。その結果、ウニの種や飼育環境が異なることよりも、同じ餌料を与えることが、ウニの消化管細菌群集構造を規定する要因となっていることがわかってきました。また、ウニの成長と関連する新たな微生物群の存在も見いだされてきました。一部の個体の消化管内容物からは、今までウニでは知られていなかった窒素固定細菌の痕跡も検出されてきました(Haditomo et al. 2021)。

澤辺智雄・北海道大学大学院水産科学研究院・教授

参考文献

Haditomo AHC et al. (2021) The structure and function of gut microbiomes of two species of sea urchins, Mesocentrotus nudus and Strongylocentrotus intermedius, in Japan. Front. Mar. Sci. 8:802754.

31 December 2023 posted

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