Welcome photo by 新村龍也・足寄動物化石博物館. 北海道羽幌町産プリオサウルス類の復元画(ポリコティルス類を襲っているところ)©新村龍也・足寄動物化石博物館
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New Museum Exhibisions started on 15 September 2023
Site opening on 7 September 2023
証
北海道大学総合博物館とのコラボレーションが実現しました。初回は、越前谷研究員による海竜の話題をお届けします。総合博物館や理学研究院が所蔵する海竜化石やレプリカの写真とともに、太古の海を生き抜いていた原始的な爬虫類を思い描いてみてはいかがでしょうか。足寄動物化石博物館の新村龍也 学芸員には、我々の海竜についての想像力を涵養する見事なイラストや復元CGを提供いただきました。この場を借りてお礼申し上げます。すばらしいの一言です!
海竜のコンテンツでは、太古の海の生態系を再考する意外な話題も紹介されています。海竜の化石が、化学合成細菌を主体とする微生物生態系の謎を解くヒントを与えていたとのこと。海竜の化石を調べることが、海の大いなる生命の連鎖につながる知見を与えたことは、優れた観察眼と深い洞察の賜物と、敬意を表します。
海竜の化石は、北海道大学札幌キャンパスにある総合博物館で見ることができます。実物に勝るものはありませんので、是非、足を運び、太古の海竜の証を感じとってください。紹介されている海竜の化石のうち、ウタツサウルスのレプリカは理学部に、別の魚竜やモササウルスの化石(本物)は博物館で展示中とのことです。残念ながら、首長竜は現在非公開ですが、プリオサウルスの化石は近く公開予定とのことです。
FoM Editorial
7 September 2023 posted
原始魚竜ウタツサウルス
海にはたくさんの動物が生きていますが、その一部は陸で生活していた祖先から再び海へと戻った生き物です。現生動物だと鯨類(クジラ・イルカ)、海牛類(ジュゴン・マナティ)、鰭脚類(アシカ・アザラシ・セイウチ)、ラッコ、海鳥、ペンギン、ウミガメ、ウミヘビなどがいます。絶滅したグループもたくさんいます。哺乳類では、およそ2,800-1,100万年前には束柱類(デスモスチルスなど)という円柱を束ねたような歯で海草を食べていた、カバのような外観の動物がいました。
爬虫類では、白亜紀後期のおよそ9,800万年前まで遡るとヘビに近いトカゲの仲間から四肢や尾にヒレを持つモササウルス類が出て恐竜と同時に絶滅しています。ジュラ紀から白亜紀前期には同様に四肢や尾にヒレを持つ海ワニ類がいました。
さらに遡って恐竜が出現する前の三畳紀の初め頃にはさまざまなグループが海へと進出しています。後にジュラ紀や白亜紀にかけて繁栄する首長竜の祖先グループであるノトサウルス類や、その近縁グループで亀のような甲羅を持ち板のような歯で貝や甲殻類を食べていた板歯類。そしてこれら陸上動物を祖先とする海棲動物のうち、最初の海の支配者となる魚竜類です。
初期の魚竜の体型はモササウルス類や海ワニ類と同様に胴長でしたが、オフタルモサウルスに代表される進化型ではイルカそっくりの姿になりました。ただし哺乳類であるイルカは祖先が陸上で走るときに背骨が上下に振動していたので、イルカは水平に寝た尾ビレを上下に振動させるように進化しました。それに対して、魚竜の祖先である爬虫類はお尻と尻尾が一体化していて走るときに尻尾を左右に振っていたので、魚竜は魚のように垂直に立った尾ビレを左右に振動させるように進化しました。
初期の魚竜と進化型の魚竜では体型だけでなく泳ぎ方も違うと考えられていて、極端な大別では「ウナギ型」と「マグロ型」などと表現されることが多いです。実際には初期の魚竜(やモササウルス類や海ワニ類)はウナギというよりは、サケのように体全体と尾ビレの両方の運動を利用し(平田ほか,2002)、水を後方に押し出して推進していたのでしょう。進化型の魚竜はマグロやイルカのように尾ビレを使ってスクリューと同じ原理で揚力を後方へ発生させて推進していたと考えられています。
その最初期(約2億5,000万年前)の魚竜が日本の宮城県南三陸町歌津ではじめに発見されたウタツサウルスです(Shikama et al., 1977)。北大の標本は石巻市雄勝で見つかったものですが(箕浦ほか,1993)、宮城県では他にも多くの魚竜化石が発見されています。後肢が小型化した進化型と違ってウタツサウルスの前肢と後肢は同じくらいの大きさで、ヒレをしっかり構成するために骨が短くなっている進化型と違って四肢を構成する骨も比較的細長いなど、陸上を歩いていた祖先の面影を他にも残していて(Motani, et al., 1998)、陸上動物の海への進出を研究する上で貴重な資料となっています。
宮城県石巻市雄勝産ウタツサウルス化石のレプリカ(北海道大学理学部2号館低層棟1階ロビー)
越前谷宏紀・北海道大学総合博物館・資料部研究員
参考文献
平田宏一・春海一佳・瀧本忠教・田村兼吉・牧野雅彦・児玉良明・冨田宏(2002),魚ロボットに関する基礎的研究.海上技術安全研究所報告,2 (3): p. 281-307.
箕浦名知男・小野慶一・鎌田耕太郎・加藤俊夫・高橋真千子・加藤誠・川上源太郎(1993),宮城県雄勝町下部三畳系産魚竜の発掘.地学研究,42: p. 215-232.
Motani, R., Minoura, N. and Ando, T. (1998), Ichthyosaurian relationships illuminated by new primitive skeletons from Japan. Nature, 393: p. 255-257. doi:10.1038/30473
Shikama, T., Kamei, T. and Murata, M. (1977), Early Triassic Ichthyosaurus, Utatsusaurus hataii Gen. et Sp. Nov., from the Kitakami Massif, Northeast Japan. Science Reports of the Tohoku University Second Series (Geology), 1977. 48(1–2): p. 77-97.
7 September 2023 posted
竜骨生物群集
光も届かない深海の海底には、クジラの死骸に群がって生活している生き物たちがいます。クジラの腐肉はヌタウナギやソコダラ、オンデンザメといった深海魚に食べられ、甲殻類や多毛類、巻貝などによって骨だけにされます。やがて骨に含まれる脂質が微生物によって分解されメタンや硫化水素が発生すると、それらをエネルギー源として利用する化学合成細菌を生産者とする生物群集が現れます(Camps, 2016)。
このようなクジラの遺骸の腐敗過程で現れる生物群集は「鯨骨生物群集」と呼ばれています。高密度の細菌マットのほか、化学合成細菌を体表や体内に共生させるイガイ類やシロウリガイ類にゾンビワームとも呼ばれるホネクイハナムシなどの生き物たち。共生細菌を持たないが細菌マットを食べて生活している微生物や巻貝をはじめとする生き物たち、さらにはそれらの微生物から食物連鎖していくさまざまな生き物たちが最近の研究で次々と明らかになっているようです。
ところで、化学合成細菌を生産者とする生物群集には、他にメタン湧水や熱水噴出孔の周辺に見られる生態系が知られています。これらの生態系は世界中で知られていますが、このような生き物たちがどのようにして分布域を広げていったのか、そのメカニズムはよくわかっていませんでした。しかし1987年の鯨骨生物群集の発見によって、これらの生態系の分布域拡大に鯨骨生物群集が関与していたのではないか、そしてこの2種類の生物群集はどちらが先に発生したのか、という議論が始まりました。
これらの議論で問題になったのは、クジラの祖先が海洋に進出したのは約5,000万年前で、大型化するのはもっと後だということです。それ以前の時代にもメタン湧水や熱水噴出孔の周辺に見られる生態系は存在していたようで、それらの時代のクジラの不在が議論のネックになっていました。
2008年に東京大学と北海道大学の研究グループが北海道羽幌町から発見された白亜紀後期(約9,000万年前)の首長竜の化石のまわりから、米粒ほどの大きさのハイカブリニナ科やシンカイサンショウガイの仲間の巻貝化石を発見し報告しました。これらの巻貝は同じく白亜紀のメタン湧水堆積物から見つかっている巻貝とそっくりで、首長竜の骨に生じた細菌マットを食べていたと考えられます。この首長竜の化石の表面はぼろぼろで、⾸⻑⻯の遺骸の腐敗に伴う環境に、化学合成細菌を生産者とする生物群集が存在していたと推測されます。世界初の「竜骨生物群集」の発見でした(Kaim et al., 2008)。
首長竜は白亜期末に恐竜と一緒に絶滅してしまいますが、白亜紀から現在まで生き残っている海棲爬虫類がいます。それはウミガメです。2017年には白亜紀の原始的なオサガメ類の化石からハイカブリニナ類やハナシガイ類といった化学合成群集が報告されました(Jenkins et al., 2017)。
海棲爬虫類は三畳紀の初め(約2億5,000万年前)から登場しており、現在ではこれら海棲爬虫類の遺骸が化学合成群集の進化に深く関与してきたと考えられています。
背景写真:北海道羽幌町産首長竜化石のクリーニング中に見つかったハイカブリニナ科巻貝(巻貝ブロックをはがす前後をお楽しみください)
越前谷宏紀・北海道大学総合博物館・資料部研究員
参考文献
Camps, M. A. (2016), What lies beyond the death of a whale? All you need is Biology.
Jenkins, R. G., Kaim, A., Sato, K., Moriya, K., Hikida, Y. and Hirayama, R. (2017), Discovery of chemosynthesis-based association on the Cretaceous basal leatherback sea turtle from Japan. Acta Palaeontologica Polonica, 62(4): p. 683-690.
Kaim, A., Kobayashi, Y., Echizenya, H., Jenkins, R. G., and Tanabe, K. (2008), Chemosynthesis-based associations on Cretaceous plesiosaurid carcasses. Acta Palaeontologica Polonica, 53(1): p. 97-104.
背景写真:巻貝のブロックを外して首長竜の化石(茶色)を露出させたところ
7 September 2023 posted
首長竜は三畳紀後期に現れ、白亜期末に恐竜と一緒に絶滅した海棲爬虫類です。首長竜という通称に反して、首の長いグループだけでなく首の短いグループもいましたが、どちらもヒレ状に変化した四肢を持っていました。
おそらく主に舵として使われていた魚竜やモササウルス類の四肢のヒレと異なり、首長竜のヒレは軽くカーブを描いて先細りしており、ウミガメの前ヒレに似ています。ウミガメやアシカ、ペンギンと同様に、首長竜はヒレを左右に開いて羽ばたくように動かすことで、スクリューと同じ原理で揚力を後方へ発生させて推進していたと考えられています。現生動物と違うのは、首長竜は後ヒレも前ヒレと同様に羽ばたかせていたというところです。単純に2倍の効率を稼いでいたかは疑問ですが、すぐれた遊泳能力を持っていたと考えられます。
首長竜は白亜紀には首の長いエラスモサウルス科、首の短く比較的小型のポリコティルス科、首が短く大型のプリオサウルス科の3系統が生息していました。ポリコティルス類をアシカに例えれば、プリオサウルス類はシャチに例えられるような凶暴な生き物でした。
プリオサウルス科は巨大な頭蓋骨や⻭と短い⾸が特徴的な⾸⻑⻯のグループで、ジュラ紀後期や⽩亜紀前期には体⻑が10m以上に達するものもいたことが知られています。白亜紀末まで生き延びた他の2系統と異なり、プリオサウルス科は遅くとも⽩亜紀後期の中頃には絶滅したと考えられています。おそらくジュラ紀や⽩亜紀の海の頂点捕⾷者であったにもかかわらず、プリオサウルス科の絶滅については、あまり研究が進んでいません。
北海道内4か所(羽幌町・中川町・小平町・三笠市)から発見されて、長年博物館に収蔵されていた白亜紀後期のプリオサウルス類の化⽯が2023年に記載・報告されました(Sato, et al., 2023)。そのうち2000年に羽幌町で発見され北海道大学が採集した化石には、頭蓋骨、歯、椎骨、肋骨、骨盤などが含まれていました。この個体は北⽶産の大型種に匹敵する大型個体で、下顎を含めた頭蓋骨全体の最大⻑は1.7m前後、全長はおおよそ7-8m前後と推定されます。
白亜紀後期前半のセノマニアン・チューロニアン境界(約9,400万年前)は古くから生物相に大きな変化があった時期として認識されており、世界各地で海洋無酸素事変に関連した海洋環境の大変化があったことが分かっています。白亜紀の海棲爬虫類の主要グループのうち、⿂⻯はセノマニアン期に絶滅し、あたかもそれに取って代わるように、モササウルス亜科の多様化はセノマニアン期から次のチューロニアン期の間に起こりました。
プリオサウルス科の絶滅もこの時期に前後して起こった可能性が考えられてきましたが、この化石の産出年代はセノマニアン・チューロニアン境界よりもおおよそ2-300万年程度は新しいと考えられ、⽩亜紀後期の⾸⻑⻯の3系統はともにセノマニアン期末(約9,400万年前)の環境変動を生き延びたことが明らかとなりました。
背景写真:北海道羽幌町産プリオサウルス類化石の産出部位 ©新村龍也・足寄動物化石博物館
越前谷宏紀・北海道大学総合博物館・資料部研究員
参考文献
7 September 2023 posted
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