DEEP SEA & LIFE fish of the month

Welcome Photo 深海底熱水活動域の生態系 (Photo courtesy of Stefan Sievert, WHOI/NSF/HOV Alvin, © Woods Hole Oceanographic Institution)

What's new

Site opening on 29 July 2024

結:Fish of the Monthの最後のコンテンツには深海に関わるトピックスを選びました。訪ねたくても簡単には到達できない領域であるからこそ、多くの人々の興味を惹きつけてきています。この「深海」を様々なアプローチで研究対象としている北海道大学水産科学研究院の研究者に、その魅力と成果の一端を紹介してもらうこととしました。かつて、潜水探査機「くろしお」を保有し海洋フロンティアを切り拓いてきた血脈は、研究のアプローチを変えながら、現在の水産科学研究院に確かに引き継がれています。物理学・化学・生物学を基盤とした様々な切り口で、深海に関わる新知見が次々に得られています。この「深海」コンテンツが「終わりの始まり」となり、海とそこに集う生物に関する研究を牽引する新たな世代の覚醒を願っています。2024年10月から、図書館と博物館を融合させた複合施設の運用が始まります。そこには、FoMで紹介してきた魚類標本や「くろしお」の情報など、豊富な学術資料が所蔵・収蔵されています。百聞は一見に如かず。皆様のご来館をお待ちしております。FoM Editorial 29 July 2024 posted

化学の視点で深海底を調べる

海洋表層で植物プランクトンが光合成をして有機物生産を行っています。その有機物粒子がゆっくりと沈む様子が海中カメラで撮影された動画からみられます(背景写真)。雪のように見えることから“マリンスノー”と呼ばれています。マリンスノーの正体は、植物プランクトンや大型藻類に由来する透明で粘性のある多糖類と考えられています。透明粒子に光が反射されるから白色に見えるのです。マリンスノーの一寸先は闇です。

海底面が数メートル先まで近づくと、ようやく見えて、もう少し近づくとハッキリと見えます(背景写真)。海底面にある円形の物体は、棘皮動物の“カシパン”類です。彼らは、直上から降ってくるマリンスノーを餌にして生きています。これは北部ベーリング海の大陸棚(水深50 m)で海洋堆積物を採取する際に撮影された動画や写真です。

背景写真: 北部ベーリング海で海底堆積物を採取する際に撮影した海中の様子.マリンスノーで一寸先も闇、数メートル先に海底面がぼんやり見えた、急に海底面がハッキリ見えた、棘皮動物のカシパンで覆われる北部ベーリング海の海底面.

もっと深い海底面にも動物が高密度に生息することもあります。背景写真は、北海道釧路沖の大陸棚斜面(水深 300 m付近)の海底面です。一面にクモヒトデがいるのがわかります。ここも生物生産性が高い海域なので、表層から多量の有機物粒子(マリンスノー)が降ってきて、豊かな海底生態系が支えられています。

我々、北大院水産の海洋化学者たちは、このような有機物が積もる海底面の化学的な様子を調べるために海底堆積物のコア(柱状)サンプルを集めています(背景写真)。海底堆積物中では、微生物が有機物を分解する際に酸素が消費される。堆積物中で酸素が枯渇すると、硝酸イオンや硫酸イオンが酸化剤として微生物の呼吸に使われます。

背景写真: 釧路沖太平洋陸棚斜面(水深300 m)での堆積物コアサンプル採取の様子.クモヒトデで覆われる海底面、採泥管のアームが海底面に突き刺さる瞬間、採取されたコアサンプル).

このような特殊な環境では、普通の海水中では見られないような化学反応が起こります。特に、ヨウ素化合物の化学変化が面白く、謎が多いのです。大気や海水中では、一番マイナーな有機ヨウ素ガスのヨードエタンですが、何故か、海洋堆積物中では最もメジャーな有機ヨウ素ガス成分に躍り出るのです。植物プランクトンを集めて瓶に詰め、放置して臭くなりかけた頃に、ヨードエタンが多量に発生することが室内実験で確かめられました。海底面に堆積した植物プランクトン(主に珪藻類)がヨードエタンを発生させる正体でした(Ooki et al., 2022)。世界中でヨードエタンに着目している自然科学研究者は数人しかいないと思われますが、これは大発見である(と、筆者は思います)。

大木 淳之・北海道大学大学院水産科学研究院・教授

参考文献

Ooki, A., K. Minamikawa,F. Meng et al. (2022) Marine sediment as a likely source of methyl and ethyl iodides in subpolar and polar seas. Commun Earth Environ 3, 180.

29 July 2024 posted

深海の動物プランクトン

動物プランクトンは世界中の海洋の表層から深海に広く分布しています。海洋において動物プランクトンは、表層で植物プランクトンが固定した炭素を摂餌して、大型な粒子である糞粒の形にして排泄することで、表層から深海への炭素輸送の駆動源として働いています。この動物プランクトンを介した深海への物質輸送は「生物ポンプ(Biological Pump)」と呼ばれ、地球規模の物質輸送に貢献しています。日本近海には西部北太平洋に加えて、3つの縁辺海:オホーツク海、日本海および東シナ海があります。北大水産学部附属練習船のおしょろ丸の航海において、西部北太平洋と3つの縁辺海を含む7定点にて、鉛直多層式開閉ネット(VMPS)を用いた海表面から水深3,000 m間の鉛直区分採集を行い、層別の動物プランクトン試料を得ました(Figure 1)。試料中に出現した動物プランクトンの出現個体数と生体体積を見ると、いずれも表層で多く、深度が増すにつれて減少していました。出現個体数は定点による差は小さいのですが、生体体積の方が定点(海域)による差が大きく、表層で多い海域では深海でも多い事が分かります。この生体体積の差は、含有炭素量の差に比例しており、表層での炭素固定量の多い海域では深海でも炭素量が多く、表層の生産量が深海の生物量と比例していることが分かりました。

Figure 1. 動物プランクトンの層別分布様式

山口 篤・北海道大学大学院水産科学研究院・准教授

写真: 深海性動物プランクトン(Paraeuchaeta属カイアシ類)

参考文献

Yamamae, K., Y. Nakamura, K. Matsuno, A. Yamaguchi (2023) Vertical changes in zooplankton abundance, biomass, and community structure at seven stations down to 3000 m in neighboring waters of Japan during the summer: Insights from ZooScan imaging analysis. Progress in Oceanography, 219, 103155. PR

29 July 2024 posted

深海底熱水活動域の生態系を支える微生物

深海にも驚くほど多くの微生物が存在しています。中でも、深海底の熱水活動域には化学合成独立栄養微生物の一次生産に立脚した生態系が形成されています。海底下から噴き出す高温熱水が、冷たい海水と適度に混ざり合うところでは、微生物とともに生きるチューブワーム、二枚貝などの無脊椎動物が密集しています。改良型 Alvin 号による潜航調査に参加する機会に恵まれ、東太平洋海膨(EPR)に位置する Crab Spa 熱水サイト(水深 2,506 m)を目の当たりにした時の深海の豊かな生態系は鮮明な記憶として残っています。

EPRで発見されたブラックスモーカー (Photo courtesy of Stefan Sievert, WHOI/NSF/HOV Alvin, © Woods Hole Oceanographic Institution)

深海の熱水活動域で優占する細菌グループのひとつとして、イプシロンプロテオバクテリア綱が知られています。このグループは、分子系統学的および生理学的に多様な細菌種を含む細菌グループであり、熱水孔環境では独立栄養性のイプシロンプロテオバクテリアが一次生産者としての役割を担っていると考えられています。今までに、至適増殖温度が45℃を超える好熱性の細菌や、それよりも低い温度の中温性の細菌など、新たなイプシロンプロテオバクテリアを世界各地の熱水活動域から単離し、新種として提唱してきました。前者はNitrosophilus labiiNitrosophilus alviniNitrosophilus kaiyonisおよびHydrogenimonas urashimensisの4種、後者はHydrogenimonas cancrithermarumSulfurovum aggregansの2種です。これ以外にも、新たなHydrogenimonas属やSulfurimonas属細菌を単離しており、新種としての記載を進めています。

Hydrogenimonas cancrithermarum (北大水産科学研究院 山木将悟 助教撮影)

深海熱水孔環境由来の独立栄養性イプシロンプロテオバクテリアは、生物進化を研究する優れた生物材料にもなります。Hydrogenimonas cancrithermarum ISO32 株は、Hydrogenimonas 属で初めて、①常温性の増殖温度を示す分離株であること、②水素の他に還元型硫黄化合物をエネルギー源として利用できることを見いだしました(Mino et al. 2023)。その他にも、常温性細菌であるSulfurimonas属を対象として、熱水孔微生物の種分化を理解する研究を進めてきました。複数の遺伝子情報を詳細に解析することで、世界各地(沖縄トラフ、マリアナトラフ、大西洋中央海嶺、インド洋中央海嶺)に点在する深海底熱水活動域間では、微生物間の交流が制限されており、動植物で見られるような異所的種分化が起こっていることを見いだしました。高温から常温への適応や、化学合成独立栄養性から化学合成従属栄養性への変遷、種分化をもたらす要因など、イプシロンプロテオバクテリアの進化を紐解いていきたいと考えています。

美野さやか・北海道大学大学院水産科学研究院・助教

写真: Crab Spa熱水サイトでのチューブワームの群落(Photo courtesy of Stefan Sievert, WHOI/NSF/HOV Alvin, © Woods Hole Oceanographic Institution)

参考文献

Mino S et al (2023) Hydrogenimonas cancrithermarum sp. nov., a hydrogen- and thiosulfate-oxidizing mesophilic chemolithoautotroph isolated from diffuse-flow fluids on the East Pacific Rise, and an emended description of the genus Hydrogenimonas. Int J Syst Evol Microbiol. PR

29 July 2024 posted

チューブワームのエラのクローズアップ: エラの羽毛状の組織が良く見える (Photo courtesy of Stefan Sievert, WHOI/NSF/HOV Alvin, © Woods Hole Oceanographic Institution)

深海魚

一般に200 mより深い海に生息する魚類を深海魚と言います。魚類全体で450科ほどあるうち、100科以上に深海魚が含まれます。一口に深海魚と言っても、ワニトカゲギス類やチョウチンアンコウ類のように中深層を遊泳する種、ソコダラ類やゲンゲ類などのように深海底に生息する種、ハダカイワシ類のように餌生物の動きに合わせ、日中は深海域、夜間は浅海域に移動する種など生活場所は様々です。深海魚は形態的・生態的にも非常に多様です。オニキンメやホウライエソなどでは強大な犬歯を持ちますが、深海という環境で遭遇する機会が少ない餌生物を確実に捕食できるようになったと考えられます。

背景写真 オニキンメ(オニキンメ科)大きな口に強大な犬歯を持つ(写真と標本:北大総合博物館所蔵)

チョウチンアンコウ類ではメスは大型、オスは小型で、オスはメスに噛み付いて付着します。チョウチンアンコウ類のうちミツクリエナガチョウチンアンコウ科などではオスはメスの組織と結合し、メスの体の一部と化して寄生します。これも深海では雌雄が出会う機会が少ないため、確実に繁殖するための戦略と考えられます。

背景写真 ビワアンコウ(ミツクリエナガチョウチンアンコウ科) 写真個体はメスで、腹部に1個体のオスが寄生している(写真と標本:北大総合博物館所蔵)

ワニトカゲギス類やハダカイワシ類などでは体の腹側に多くの発光器を持ちます。これらの魚類は中深層を遊泳しますが、上から光が降り注ぐ環境では魚を下から見ると影ができ、敵から見つかりやすくなります。発光器を使って自ら発光することで、自分のシルエットをぼかして敵から狙われにくくしています。このような発光を「カウンターイルミネーション」と言います。これまで最も深い海域から採集されたと考えられているのはアシロ科のヨミノアシロで、水深8,370 mからの記録があります。

今村 央・北海道大学大学院水産科学研究院教授/北海道大学総合博物館分館水産科学館長

背景写真 スイトウハダカ(ハダカイワシ科) 体の腹側に多くの球状の発光器がある(写真と標本:北大総合博物館所蔵)

参考文献

尼岡邦夫. 2009. 深海魚―暗黒街のモンスターたち―. ブックマン社.

29 July 2024 posted

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