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タコ類の入門
タコは頭足綱と呼ばれる動物のグループに属しています。頭足綱は、5億年以上前のカンブリア紀に出現した多様な軟体動物の一種です。
現在、頭足綱には亜綱と呼ばれる2つの大きなグループが存在しています: 1) オウムガイ亜綱(Nautilodea), 2) 鞘形亜綱(Coleoidea)。鞘形亜綱は2つの上目からなります: 1) 八腕形上目, 2) 十腕形上目。タコ類は、八腕形上目の仲間です。
現在、タコ類は世界の海におよそ300種知られていますが、新種が発見され、その数は増え続けています。日本近海にはおよそ60-70種ほどいると思われます。
タコ類は海水中にしか生息しません。赤道から極海域まで、すべての海域に生息しています。
タコ類は2群に分かれています: 1) 鰭がない無触毛亜目, 2) 鰭がある有触毛亜目.無触毛亜目の仲間に、ミズダコがいます。
ミズダコの入門
ここ北海道では、タコといえばミズダコが有名です。世界最大のタコで、北太平洋の沿岸海域に最も多く生息している種です。メキシコからアラスカ湾、アリューシャン列島、ベーリング海、オホーツク海、日本海に至る環太平洋沿いに生息しています
最大寿命は、オスで約4.5年、メスで約5年と考えられています。
日本では、商業的に最も重要なタコ類です。年間漁獲量は約15,000〜20,000トンで、そのほとんどが北海道の沿岸海域で生産されています。
外部の形態
タコ類には、大きく分けて3つの体の部分があります: 1) 腕部, 2) 目を含む頭部、そして3) 外套膜(内臓塊)。まず、腕の部分を見てみましょう。
腕部
タコには8本の腕があります。歩く、物を扱うなど、さまざまな作業に使われます。タコ類の神経細胞の約3分の2は腕にあります。その結果、各腕がほぼ独立して動作することができます。
吸盤
腕の重要な特徴は吸盤です。ミズダコは、両腕に2列の吸盤があります。成体では、1本の腕に約100個の吸盤があります。吸盤は、移動、付着、摂食、味覚、ディスプレイなどに使われる複雑な器官です。タコ類は、吸盤を覆っている皮膜が頻繁に剥がれ落ちます。タコが腕を短く回すことがありますが、これは「タコ踊り」と呼ばれています。このような行動をとることで、皮膚が剥がれ落ちるかもしれません。
皮膚
タコ類は、色や質感を変化させることができる驚くべき皮膚があります。肌の色を作り出すのは、3つの成分です: 1)色素胞、2)虹色素胞と、3)白色素胞です。色素胞は、色素の入った小さな風船のようなものです。黄色、オレンジ、赤、茶色、黒など、さまざまな色があります。皮膚の物理的な質感は、複雑な筋肉組織によって制御されています。皮膚は滑らかなものとトゲトゲしたものがあります。このような皮膚にある峰を乳頭状の突起といいます。これらの皮膚成分を組み合わせることで、カモフラージュに使われる複雑な視覚ディスプレイを作り出すことができるのです。
眼
タコ類は目が発達しており、視力に優れています。網膜の構造や行動実験から、タコ類は色盲であることが示唆されている。しかし、瞳孔の形が細長いため、色を識別できるかもしれません。タコ類、イカ類、とコウイカ類はそれぞれ異なる形の瞳孔を持っています。タコ類の瞳孔は長方形、コウイカ類のはW型、そしてイカ類の瞳孔は円形です。タコの瞳孔は虹彩に囲まれている。虹彩には色素胞の層があります。偏光の偏光面を識別できる種もあります。獲物や捕食者の検知に役立てるかもしれません。
移動
タコはいくつかの移動方法があります。一番多いのは、底を這うように歩くことです。前二組の腕は、海底から浮き上がっていることが多い。腹側の2対の腕が動物を前進させます。タコは通常、這いながら、背側の2対の腕を使って岩の下や隙間などを探り、餌を探します。興味深いことに、北海道南部のミズダコは、前2脚の一部が欠けていることが多い。これは、捕食者に襲われたことが原因である可能性が高いです。タコにとって幸いなことに、腕を失っても新しい腕(と吸盤!)を再生することができます。
また、ジェット推進という運動形態もあります。水は外套膜に引き込まれ、漏斗から強く押し出されます。捕食者から逃げようとする時によく使われます。ジェット推進は高速な加速が可能ですが、多くのエネルギーを必要とします。
また、タコは逃げようとするとき、墨を吐き出すこともあります。
防衛
タコは敵から身を守るために様々な方法を進化させてきました。一般的な防御方法として、一次防御(primary defense)と二次防御(secondary defense)の2つがあります。一次防御は、捕食者に遭遇したり、発見されたりする確率を下げます。タコに共通する一次防御として、カモフラージュと保護色があります。タコはその皮膚を変化させて、基質や背景の外観に似せることができます。
タコは発見されると、二次防御をすることがあります。例えば、捕食者の注意をそらすために大きな墨汁の「煙幕」を作りながら逃げます。
採食
他の頭足類と同様、タコ類は肉食です。獲物・被食者は甲殻類、魚類、殻付き軟体動物など多様です。また、他の多くの頭足類と同様に、共食いが蔓延しています!タコでは、腕の間の膜が獲物・被食者を捕らえるのに重要です。広げて獲物・被食者を包囲するのに使います。ミズダコは、いわゆる speculative huntingをしています。網を広げて飛びかかり、膜の下を探し回って餌を探します。そして、獲物・被食者は吸盤によって口へと運ばれる。また、タコは前方の2対の腕を隙間に伸ばして餌を探します(「思索手探り」(speculative groping))。そのためか、腕の先端が欠けていることが多いです。
魚類や哺乳類は大きな獲物を丸ごと飲み込むことができますが、タコ類はできません。食道はドーナツ型の脳の中心を通過してるからです。そのため、獲物は脳の中心を通過するために細かく砕かれます。
呼吸
タコは、頭部の両脇にある鰓孔から外套膜に水を取り込んで呼吸しています。水はエラの上を通過し、そこで酸素と二酸化炭素が交換されます。タコ類(他の頭足類と同様)の血液が青いのは、ヘモシアニンという銅を多く含むタンパク質によるものです。エラから全身に酸素を運ぶタンパク質です。
繁殖
オスは、交接腕 (hectocotylus)を使って、カプセルに入った精子のパッケージ(精子胞)をメスに渡すことができます。交接の際、オスは交接腕の先端をメスの外套腔内にある卵管開口部に挿入する。オスは、長さ1mにもなる精莢と呼ばれる細長い精子の包みを転送する。交接は約2~4時間かかります。
睡眠
ブラジルの最近の研究で、タコには静かな眠り(quiet sleep)と活動的な眠り(active sleep)の2つの段階があることがわかりました。活動的な睡眠段階は、人間のレム睡眠(REM)に似ているようです。ミズダコも眠るのかどうかはわかりませんが、現在、臼尻実験場でこのテーマを研究している大学院生がいます。
BOWER John Richard・北海道大学大学院水産科学研究院・准教授
もっと知りたい人へ
ゴドフリー・スミス、ピーター. 2018. タコの心身問題 : 頭足類から考える意識の起源. ISBN 978-4622087571.
Hanlon, R., Vecchione, M., & Allcock, L. 2018. Octopus, Squid, and Cuttlefish: A visual, scientific guide to the oceans’ most advanced invertebrates. University of Chicago Press.
野呂恭成. 2012. 津軽海峡におけるミズダコとマダコの生態と資源管理に関する研究. 博士論文. 北海道大学.
腕部と吸盤
Reardon S. 2023. How octopuses taste with their arms. Nature. 2023 Apr 12
皮膚
Hanlon, R. (2007). Cephalopod dynamic camouflage. Cur. Biol. 17: R400-R404.
眼
移動
Hanlon, R. T., & Messenger, J. B. 2018. Cephalopod behaviour. Cambridge University Press.
防衛
Hanlon, R. T., & Messenger, J. B. 2018. Cephalopod behaviour. Cambridge University Press.
採食
Hanlon, R. T., & Messenger, J. B. 2018. Cephalopod behaviour. Cambridge University Press.
繁殖
Hanlon, R. T., & Messenger, J. B. 2018. Cephalopod behaviour. Cambridge University Press.
睡眠
Gutnick, T., Rokhsar, D. S., & Kuba, M. J. 2023. Cephalopod behaviour. Cur. Biol. 33:R1083-R1086.
Meisel, D. V., Byrne, R. A., Mather, J. A., & Kuba, M. 2011. Behavioral sleep in Octopus vulgaris. Vie et Milieu, 61:185-190.
26 November 2023 posted
新境地
「北海道南部の東岸の港街にいるタコゆで名人が作ったタコは絶品だよ」: 函館での生活に慣れてきたころ、馴染みになった鮨店の主人からよく聞かされていたことです。函館で、イカではなくて、タコ? 二十数年前の当時には、函館で、タコの研究が進展し始めるとは想像だにしませんでした。北海道のタコの漁獲は、ここ数十年、1万トン前後で推移しており、国内トップレベルを誇っています。タコの生態や資源に関する研究が進んできたことにも合点がいきます。
北海道大学水産科学研究院のBower准教授が、イカの生態学から、タコの生態学に転身し、タコ研究の新境地を切り拓いています。お気づきの通り、このタコのコンテンツも、従来のスタイルを破り、Welcom Photoのタイトル・レイアウトの変更、動画と文字のコンビネーションを主体としたモノトーンな本体構成、を取り入れました。そして、読者の皆様に、タコの世界に、真っ先に引きずり込まれていただくために、FoM editorialの解説を最後に配置することにしました。Bower准教授が切り拓くThe World of Octopusを楽しんでいただけると幸いです。
秋から初春にかけてが、函館での、タコの旬です。味覚と食感の新境地を切り拓いてくれる絶品の函館近海のタコも、一度はお試しください。
FoM Editorial
26 November 2023 posted
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