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Fish of the Month Squid

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Food Science topics posted on 4 November 2023

Site opening on 2 June 2023

Welcome photo by MATSUI Hajime

日常に

函館に日常が戻ってきました。スルメイカの旬の到来です。スルメイカ漁の最盛期には、函館周辺の海に漁火がともり、函館夜景にアクセントを加えます。函館の水産文化と陸繋島と呼ばれる特徴的な地形が醸し出す極上の景観は必見です。初冬まで、この漁火は、函館の日常の風景に溶け込んでいます。一生に一度は、自身の目で見ておきたいお薦めの風景の一つです。

北大練習船に設置されているイカ釣り機

北大水産科学研究院は、イカの生態研究を牽引し続けています。現在はFSCに所属する山本潤助教がフィールドワークはもとより、函館市国際水産・海洋総合研究センターの大型実験水槽をはじめとする各種施設を活用し、次世代のイカ生態研究を展開しています。思いのほか傷つきやすく、飼育が難しいイカですが、welcome photoにあるよう、大型水槽などでの飼育実験が鋭意続けられています。様々な独自の工夫を施し、一定の飼育成果が得られ始めているそうです。また、以前からイカの卵塊形成やその後の孵化についての研究を進め、様々な点からイカの新知見を得ています。そこで生まれたイカの赤ちゃんの写真もお披露目いただきました。

行動制限が続いた長い3年の時を経て、どこの街にも日常が戻ってきました。海の豊かさを再認識させるだけではなく、人の心までも豊かにする水産物の力をより一層感じられるこのイカの旬に、FoMでイカの知見を味わうだけではなく、来函してのイカ三昧もいかがでしょうか。

FoM Editorial

2 June 2023

イカは魚?

Fish of MonthにイカSquidとは違和感がありますか?実際、イカは魚類ではなく軟体動物の“頭足類(頭から足が生えている生物のグループ)に属しています。頭足類は大部分の軟体動物と違い、浮力を調整する機能を発達させ、魚と同じように水中を移動することができるようになりました。海洋生態系の中では、他の生物の餌生物として、ときには捕食者となり、魚と同じふるまいをしています。頭足類研究の大家によると“頭足類の最も簡単な表現は機能的に魚(its simplest expression, cephalopods functionally are fish, Packard 1972)”だそうです。そのように考えると頭足類はFoMのメンバーにふさわしいかもしれません。

ふれあい広場の写真: Hakodate’s symbol fish the squid

頭足類には、イカ、タコ、コウモリダコ、オウムガイの大きなグループあり全体で現在、約850種が確認されています。その他、絶滅したアンモナイトやベレムナイト(ヤイシ)も頭足類です。アンモナイトは1万種以上が存在したと推定されています。これら絶滅した大きな貝殻を持つ頭足類は、動きが遅く、素早い動きをする魚類による捕食圧が増加したため、白亜紀末期の隕石衝突による絶滅よりも前に、徐々に衰退していったと考えられています。現存する頭足類(外部貝殻を持つオウムガイを除き)、は貝殻を小さくして俊敏な移動が可能となり、捕食圧から逃れることができた種の末裔と考えられています(Tanner et al. 2017)。今日では、イカの一部の種は逃避行動のために、水中から飛び出し水面上を飛行する行動が観察されています。

Photo by MATSUMURA Kota

山本潤・北大北方生物圏フィールド科学センター・助教

参考文献

Packard A. 1972. Cephalopods and fish: the limits of convergence. Biological Reviews 47:241-307.

Tanner A. R. et al. 2017. Molecular clocks indicate turnover and diversification of modern coleoid cephalopods during the Mesozoic Marine Revolution. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences 284:20162818.

2 June 2023 posted

烏(カラス)を賊害する者

イカ。烏賊。中国の昔話によると、カラスが水面で浮かんでいるイカを発見し、死んでいる思いこれをついばんだ。死んだふりをしてイカはカラスを捉え水中に引き込み、食べてしまった(イラスト 日本いか連合提供)。これは故事の“あるある”と思いこんでいました。しかしながら、オーストラリアの周辺に生息する大型のミナミスルメイカの消化腺から小型の海鳥の羽が多数発見されたとの論文が2021年に発表されました(Jackson et al. 2021)。この海鳥はミズナギドリの仲間で、水面を遊泳中に襲われたのか、それとも索餌のための潜水中に襲われたのかは不明のようです。偶然?と思われるかもしれませんが、体重に占める脳の重さを調べた研究によると、頭足類の脳は一般的に鳥類や哺乳類よりは小さいが、魚類や爬虫類よりも大きいらしいのです(Packard 1972)。イカは無脊椎動物の中では高度に脳が発達している生物のようです。もしかすると“烏賊“は本当なのかもしれません。ちなみにタコも浅瀬で海鳥を捉えて食べることが目撃されています。(動画; 記事)。

山本潤・北大北方生物圏フィールド科学センター・助教

参考文献

Jackson G. D. et al. 2021. Evidence for feeding on seabirds by the Southern Ocean ommastrephid squid Todarodes filippovae. Am Malacol Bull 38:98-101.

Packard A. 1972. Cephalopods and fish: the limits of convergence. Biological Reviews 47:241-307.

2 June 2023 posted

体の仕組み 1

イカと貝の仲間は、同じ軟体動物で共通した体の仕組みを持っています。軟体動物の最も有名な特徴として関節や骨格を持ちません。イカの背中にある薄くて半透明な硬い組織は背骨ではなく、貝殻の名残で“軟甲(なんこう, gladius)“と呼ばれています。コウイカでは、炭酸カルシウムできた大きな”甲(こう)“もしくは、そのまま”貝殻 shell”があります。ちなみに、軟甲を持つグループをツツイカ目(英語ではsquid)、甲(貝殻)を持つグループをコウイカ目(同、cuttlefish)と呼んでいます。その他の軟体動物の体の特徴として、大きく三つの部位、“足部(そくぶ)”、外套膜(がいとうまく)に覆われた“内蔵部分”、そして“頭部”に分かれています。イカの“足部”は、腕や水を吐く“漏斗(ろうと)“の部位でカタツムリでは地面を這う部分(腹足)に相当します。外套膜は、内蔵を覆う体腔(外套膜腔)となっており、一般的にイカ刺しにする部分です。拡張すると周囲の海水を吸い込んで外套膜でできる空間に溜め、収縮する際は、漏斗から水を吐出します。この外套膜腔への海水の出入りする際に鰓に海水が通り、酸素と二酸化炭素の交換を行っています。”頭部“は感覚器官や口器のある部位、目の周辺になります。イカの口器には、カラスとトンビと呼ばれる2枚の顎板(がくばん)があり、その奥には”歯舌(しぜつ)”という小さな歯がたくさん並んだ器官があります。歯舌は、顎板である程度の大きさになった餌をさらに細かくします。イカの図鑑をみますと、イカの図や写真が逆さまに記載されていると感じるかもしれません。これは、頭部を上に記載するという慣例によるものです。頭部の反対方向が後方となり鰭(ヒレ)があります。更に漏斗がある面を”腹面“、その反対の面が”背面“となります。背面の外套膜の中心には、”軟甲“や”甲“が入っています。

山本潤・北大北方生物圏フィールド科学センター・助教

Figure 口を大きく開くと、細かな歯が並ぶ摺鉦(すりがね)状をした歯舌(矢印)が見える

2 June 2023 posted

スルメイカと函館

スルメイカは、北西太平洋を中心に分布する産業的にも重要なイカです。世界の頭足類の中でも常に上位の漁獲量にランクインし、中でも日本での漁獲が多く、英語では“Japanese flying squid” と呼ばれています。6月になると北海道でも漁が解禁され、函館からも多くのイカ釣り船が漁場を目指します。さて、このイカはどこから北海道にやってくるのでしょうか?スルメイカは基本的に南の海で生まれ、暖流によって北の海域へ運ばれ、餌を食べて成長し、南の海へと戻り、産卵して一生を終えるライフサイクルを持っています。寿命は一年です。発生する時期により、夏生まれ群、秋生まれ群、冬生まれ群の3つのグループに分けられ中でも、秋生まれ群と冬生まれ群の資源量が大きいため漁業の対象となっています。北海道で初夏から秋までに水揚げされているのは“秋生まれ群”で、秋から冬に水揚げされるのが“冬生まれ群“です。秋生まれ群は、秋から冬にかけて日本海南西部(山陰沖)、対馬海峡から東シナ海北部で産卵します。幼生(赤ちゃんイカ)は対馬暖流によって運ばれ、日本海の北海道周辺などの北の海域で餌を食べて成長します。一方で、冬生まれ群は、冬季の東シナ海を主な産卵場としており、黒潮によって北へと運ばれ、北海道周辺で成長します。秋生まれ群は、日本海を中心に回遊しますが、冬生まれの多くは津軽海峡を通過して日本海側へと移動し、東シナ海の産卵場へと戻ると考えられています。函館が面する津軽海峡は、ちょうど秋生まれ群と冬生まれ群の回遊ルートとなっているため、初夏から冬まで味わうことができるのです。

山本潤・北大北方生物圏フィールド科学センター・助教

Figure 飼育実験により得られたスルメイカの幼生(赤ちゃん)。全長は約1.5 mm。長い腕(触腕)が融合している。頭足類の中では最も小さなサイズで餌料は不明。

2 June 2023 posted

イカと醤油の相性

イカの姿焼きや刺身、煮つけなど、イカ料理の多くは醤油が使われています。「イカには醤油が合う」とイメージを持つ日本人は多いのではないでしょうか。

イカと醤油の相性の良さは、「味の相互作用」に由来していると考えられます。

■イカの甘旨味と醤油の塩味による相互作用

イカの主要な呈味成分は下表のようになっており(Kani et al. 2008)、他の多くの魚介類同様にグリシン等のアミノ酸が主要な旨味成分として挙げられます。またイカの呈味成分の特徴としては、他の魚介類に比べてグリシンベタインの含有量が大きいことが報告されています(Kani et al. 2008; 太田ら1985; Shirai et al. 1996)。グリシンベタインには甘旨味があり、味に濃厚さを付与する働きがあることが知られていますが(道川ら 1995)、特にアディッションテストにてイカの味を強めることが報告されています(Kani et al. 2008)。グリシンベタインにより強められたイカの濃厚な甘旨味は、醤油の塩分によりさらに引き立てられると考えております(味の対比効果)。

表 イカの主要な呈味成分含量(㎎/100g).

■有機酸による味の相互作用

魚介類の旨味成分の一つに有機酸があります。例えば、マグロには乳酸(2880~7020 mg/kg)、白エビには乳酸(15.27 mg/kg)やコハク酸(13.32 mg/kg)、牡蠣にはコハク酸(97~123.2 mg/kg)が含まれており、イカでは酒石酸(865 mg/kg)や酢酸(1334 mg/kg)が豊富に含まれていることが知られています(Shi et al. 2022)。有機酸は醤油にも含まれていますが、その中でも特に乳酸の含有量が圧倒的に多く1%程度あり、これは乳酸発酵の過程によるものです。他にはリン酸やコハク酸、酢酸など、約15種類の有機酸が含まれています(ヤマサ醤油株式会社 1991)。有機酸は他の味と合わさると他の味を増強または減弱させる効果があることが報告されています(Shi et al. 2022)。醤油は塩味、甘味、酸味、旨味、苦味等、様々な味成分によって構成されており、特に甘味、塩味は有機酸との相互作用によって増強されることが報告されています(Shi et al. 2022)。そのため、イカや醤油に含まれる有機酸が醤油の塩味やイカの甘味を増強させることで、より双方のおいしさを引き立たせていると考えております(味の対比効果)。

また、イカは旨味と甘味を呈する一方で、鮮度低下に伴い魚介類特有の生臭さも放出します。これはイカの主要呈味成分であるトリメチルアミンオキシド(Kani et al. 2008)が分解されて生成されるトリメチルアミンによるものです(太田 1980)。しかしイカと醤油を合わせると、醤油に含まれる乳酸によりイカの身が酸性に戻り身が締まり、醤油のメチオニンが変化したメチオノールがイカの生臭さを消すと考えられます(松本 2000)(味の抑制効果)。

多くの食べ物はpH4~6が食べておいしく感じるpH領域であると言われておりますが、醤油は有機酸とアミノ酸や糖分の緩衝作用によりpH4.7~5.0に保たれています。そのため、醤油とあわせて食べることで食べ物が美味しく感じられるとも言われております(ヤマサ醤油株式会社 1991; 日本醤油協会 2005)。

このような味の相互作用により、醤油はイカの良さをさらに伸ばし、更に欠点を補う働きをすることで、抜群の相性を生み出すのではないでしょうか。

坂本健治・ヤマサ醤油㈱・北海道大学大学院水産科学研究科招へい教員

宮房拓生・内村美里・ヤマサ醤油㈱

参考文献

Kani Y, Yoshikawa N, Okada S, Abe H. (2008). Taste-active components in the mantle muscle of the oval squid Sepioteuthis lessoniana and their effects on squid taste. Food Research International, 41, 371–379.

太田静行, 戸井田貞子. ベタイン(Betaine). (1985). 調理科学, 18(3), 162-166.

Shirai T, Hirakawa Y, Koshikawa Y, Toraishi H, Terayama M, Suzuki T, et al. (1996). Taste components of Japanese spiny and shovel-nosed lobsters. Fisheries Science, 62, 283–287.

道川恭子, 大野知美, 渡辺勝子, 山口勝己, 鴻巣障二. グリシンベタインの味質とエゾボラにおける呈味効果. 日本食品科学工学会誌. (1995). 42(12), 1019-1026.

Shi Y, Pu D, Zhou X, Zhang Y. Recent Progress in the Study of Taste Characteristics and the Nutrition and Health Properties of Organic Acids in Foods. (2022). Foods, 11, 3408.

ヤマサ醤油株式会社. しょうゆのほん. (1991). 32-33.

太田静行, 魚の生臭さとその抑臭. 日本油化学会誌. 1980, 39(7).469-488.

松本秀樹. 知って得する醤油の科学. 醸協. 2000, 95(5), 341-346

日本醤油協会. しょうゆの不思議. (2005). 47-49

4 November 2023 posted

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